「長持ちするニッケルめっき」に欠かせないのが、正しい耐食試験と規格適合です。本記事では、代表的な試験方法・判断の基準と、図面や見積で押さえるポイントをやさしく整理します。
先に3つのポイント
- 見た目=外観検査、長持ち=耐食試験。両方そろえて品質を確認。
- 塩水噴霧(NSS/AASS/CASS)は装飾・実用品の基本テスト。
- 図面に用途・環境・試験条件・合否基準を書けば、手戻りが減りコスト最適化に繋がる。
耐食性評価の代表的な方法
- 外観検査:目視・ルーペで傷、ピンホール、色ムラをチェック。
合否例:見せ面にムラ・点食(サビ点)がないこと、鏡面/半光沢の指定どおりであること。
- 塩水噴霧試験(SST):塩水ミストの中に一定時間さらし、赤サビ・白サビ・変色の発生を確認。
・NSS(中性)…一般的な評価に。
・AASS(酸性)…厳しめ評価。
・CASS(酢酸+銅)…Ni/Crなど装飾系の厳格評価でよく使う。
合否例:指定時間内に赤サビ/点食なし、端面除く、など。
- 膜厚測定:蛍光X線(非破壊)やクーロメトリー(溶解除去式)でNi層や多層Niの厚みを確認。
狙い:薄すぎる→短寿命、厚すぎる→コスト増や寸法超過。
- 密着試験:曲げ・引っかき・テープなどの簡易法でめっきの食いつきを確認。
狙い:下地処理不良や油残りを早期に検出。
- 多層ニッケルの評価(必要に応じて):装飾Ni/Crで使う多層Ni(半光沢Ni+光沢Ni等)は、層ごとの機能(犠牲作用・拡散抑制)を評価する手法があります。
注:詳細手順や数値基準は案件・設備により異なるため、本記事では一律値は提示していません。
試験条件をどう決める?(用途別の目安)
| 用途・環境 | おすすめ試験 | 指定の例(目安) |
|---|
| 屋内の装飾部品 | NSS(中性塩水噴霧) | NSS 24–72時間で赤サビなし/外観良好 |
| 屋外(一般) | NSS または AASS | NSS 96時間(またはAASS 24–48時間)で赤サビなし |
| 高い外観レベルのNi/Cr | CASS | CASS 16–24時間で点食なし・光沢維持 |
| 海沿い・腐食厳しめ | NSS長時間+必要に応じCASS | NSS 240時間で赤サビなし+CASS短時間評価 |
注意:上表は「決め方の例」です。品物・材料・膜厚・仕上げ・想定寿命で調整してください。具体値の業界統一基準は用途・規格により異なります(本記事では一律値は確認できていません)。
図面・見積で必ず書きたい項目
- 用途と環境:屋内/屋外、海沿い、温湿度、薬品・汗・水の付着有無。
- めっき仕様:浴種(装飾Ni/Cr、半光沢Ni+光沢Niなど)、狙い膜厚(例:Ni ○μm、Cr ○μm)。
- 試験と基準:(例)CASS 24h 点食なし/NSS 96h 赤サビなし/外観等級○○。
- 検査サンプル:現物が難しい場合は同材・同処理のテスト片で代用可と明記。
- 見せ面・治具痕:どこを最重視するか、痕を避けたい面の指示。
- めっき不要部(マスク):ねじ山・嵌合・シール面などを図示。
よくある質問(Q&A)
Q. まずは何の試験を頼めばいい?
屋内中心ならNSS、装飾Ni/Crで外観耐久が重要ならCASSが目安です。使用環境を伝えれば、条件設定を提案してもらえます。
Q. どのくらいの時間にすれば合格?
品物・膜厚・要求寿命で変わります。統一の標準値は案件によって異なるため本記事では提示していません。用途と希望寿命を共有してください。
Q. 多層ニッケルは必要?
外観Ni/Crでは半光沢Ni+光沢Niなど多層で耐食・外観を両立する設計が一般的です。コストと見た目のバランスで相談しましょう。
長持ちさせる使い方
- 使用後は水拭き→乾拭きで汗・水滴・油を残さない。
- 海水・薬品が付いたら早めに洗浄。
- 硬いタワシ・強い研磨剤は細キズ→腐食の起点に。避ける。
参考情報(一般に広く用いられる規格の例)
- 塩水噴霧:ISO 9227(NSS/AASS/CASS)、ASTM B117(NSS)、ASTM B368(CASS)
- 電気めっき仕様:ISO 1456(Ni・Ni+Crなどの電気めっき仕様の例)、ASTM B456(Ni/Cr系電気めっき仕様の例)
- 膜厚測定:ISO 2177(クーロメトリー:層厚の電量測定の例)
- 密着試験:ASTM B571(金属皮膜の密着試験の例)
免責・不明点
- 本記事は一般的な目安を示します。試験条件・合否・膜厚は品物や設備で変わります。
- 規格の版数・細目は改定されます。最新の公式原典を必ず確認してください。
- 本記事中の一部の細かな数値の業界統一基準は、本記事時点では確認できていません。案件ごとに取り決めてください。
最終更新:2025年11月12日(日本時間)。本記事は本記事時点の公知情報に基づいています。