自動車外装・内装の金属/樹脂部品に用いられるクロムめっきは、見た目(外観)と耐久(腐食・摩耗)の両立が必須です。ここでは個人・小規模案件でも使いやすいように、基本仕様の考え方・設計時のコツ・実践例をやさしく整理します。
3つのポイント
- 装飾クロム=Ni/Crの多層構成が基本(半光沢Ni+光沢Ni+Cr)。
- 耐食は「層構成」と「形状配慮」の両輪(面取り、排液穴、見せ面指定)。
- 試験条件と合否を図面で明記(例:塩水噴霧の時間・判定基準)。
自動車向けクロムめっきの基本構成(概要)
| 層 | 役割 | ポイント |
|---|
| (下地)銅めっき(必要に応じて) | 表面平滑・導電/装飾の下地 | 外観品で平滑度を上げたい時に採用。寸法増加に注意。 |
| 半光沢ニッケル | 耐食のベース | 延性と耐食の土台。上層Niとの電位差設計で点食抑制を狙うことがある。 |
| 光沢ニッケル | 外観仕上げ・バリア | ツヤの決定層。多層化で耐食を高める設計が一般的。 |
| 装飾クロム(Cr) | 色味・耐候・耐摩耗 | 三価/六価いずれも外観用。微細孔/微細割れの制御で耐食最適化する場合あり。 |
注:具体的な膜厚や層の電位差・微細孔/微細割れ密度などの統一数値は用途・規格・設備で異なり、本記事では一律値は確認できていません。見積時に要件をご共有ください。
耐久性を左右する「形状」と「図面の書き方」
- 角は軽い面取り(R):角は電流集中で「焼け」「過厚」→ムラの原因。
- 深穴・長い溝には排液/排気の小穴:内面が薄くなりやすい対策。
- マスキング指示:ねじ山・嵌合・シール面など、付けない場所は図示。
- 治具痕の許容面:つかみ痕は小さく残ることがあるため、非見せ面を指定。
- 見せ面の定義:どの面を最優先で美しくするか、写真や簡単スケッチで共有すると手戻り減。
試験・検査の決め方(自動車でよく使う考え方)
| 項目 | 狙い | 指定例(イメージ) |
|---|
| 塩水噴霧(SST) | 腐食耐久の比較 | 用途に応じてNSS/AASS/CASSいずれかの時間指定と合否基準(例:点食なし等)。 |
| 外観検査 | 見せ面品質 | ツヤ・色味・ピンホール・ムラの等級。照明条件と目視距離の取り決め。 |
| 膜厚測定 | 性能の土台確認 | 指定点のNi/Cr(必要に応じCu)を測定。非破壊/破壊の手段を合意。 |
| 密着性 | 剥離防止 | 曲げ・テープ・クロスハッチ等、簡易法の合格基準を取り決め。 |
注意:試験の時間・合否値は、部位・膜厚・寿命目標・地域環境で変わります。業界横断の固定値は本記事時点で確認できていません。
実践例(ケーススタディ)
- 外装グリルの外観重視例:
半光沢Ni+光沢Ni+装飾Cr。見せ面の定義とCASSの短時間評価+外観等級で合否を設定。角R・治具痕位置を先に図面に反映し、やり直しを削減。
- ドアハンドルの耐指紋/耐擦り傷例:
Ni/Cr基本構成に微細孔/微細割れ制御で耐食と外観のバランスを最適化。日常摩耗は取り扱いテストで確認。
- 樹脂ベースの加飾例:
樹脂前処理→無電解Cu/化学Ni→電解Ni/Cr。基材樹脂の指定(ABS/PC+ABS等)と、厚み・試験条件を事前合意。
発注前チェックリスト
- 用途と優先順位:外観/耐食/耐摩耗/コスト(優先度付け)
- 見せ面・非見せ面:写真/スケッチで明示、治具痕NG面も指示
- 素材・サイズ:金属 or 樹脂(ABS等)、おおよその寸法・数量
- 形状配慮:角R、深穴の排液/排気穴、マスキング部位
- めっき仕様:(例)半光沢Ni+光沢Ni+Cr、必要ならCu下地
- 検査・合否:外観等級、SST(種別・時間・判定)、膜厚測定点
- 納期・ロット:試作→量産の段取り案(まとめ依頼で段取り効率↑)
長持ちさせる運用のコツ
- 使用後は水拭き→乾拭きで汚れ・汗・水滴を残さない。
- 塩分や薬品が付いたら早めの洗浄で変色・点食を予防。
- 硬いタワシ・強い研磨剤は細キズ→腐食の起点に。避ける。
よくある質問(Q&A)
Q. 三価クロムでも自動車外装に使える?
色味や外観要件を満たせば多くの装飾用途で検討可能です。見本提示と試験(外観+SST)で適否を判断してください。
Q. 膜厚はどのくらいが正解?
部位・寿命・層構成で変わります。統一の標準値は案件ごとに異なるため本記事では提示していません。見積時に目標寿命と環境を共有ください。
Q. 既存部品の「ムラ・点食」を減らしたい。
形状の見直し(角R/排液穴)と、層構成・試験基準の明確化で改善余地があります。現物写真と環境情報の共有が近道です。
免責・不明点
- 本記事は一般的な目安です。層構成・膜厚・試験値・価格・納期は品物/設備で変わります。
- 規格や試験法の版数・細目は改定されます。最新の公式原典の確認を推奨します。
- 一部の詳細数値の業界統一基準は用途・地域で異なり、本記事時点では確認できていません。
最終更新:2025年11月14日(日本時間)。本記事は本記事時点の公知情報に基づいています。