金属3Dプリント(例:LPBF/SLM、DMLS、EBM、バインダージェット)で作ったステンレス、チタン、インコネル等に銅(Cu)めっきを施すと、導電・放熱・はんだ付け性が向上します。一方で、高い表面粗さ・多孔質・残留粉末など3Dプリント特有の課題があり、従来材のめっき要領がそのまま通用しないことがあります。ここでは、失敗しやすいポイントと実務的な対策をやさしく整理します。
3つのポイント
- 粗さ・多孔質・残留粉末が密着不良とピンホールの原因。前加工(機械・化学・電解)と洗浄を重視。
- 材質ごとに活性化/ストライク層がカギ(SUS=ウッズNi、Ti=特殊活性→Ni/Cuストライク、アルミ=ジンケート等)。
- 内部流路・盲穴は厚みムラと液抜け不良が出やすい。設計段階から排液穴・補助電極を検討。
よくある課題と対策(まとめ)
| 課題 | 主因 | 実務的な対策 |
|---|
| 密着不良・剥離 | 粗さ過大、多孔質、酸化膜、油・粉末残り | サンド/ショット/バレルで粗さ整え→超音波洗浄→活性化酸洗→ストライクめっき(例:SUSはウッズNi、Tiは適切な活性後Ni/Cuストライク) |
| ピンホール・ブリスター | 気体の脱ガス、孔への液トラップ | 予備ベーキング(脱ガス)、含浸(インプリグネーション)で孔埋め、低電流密度からの立ち上げ、リンス徹底 |
| 厚みムラ(角過厚/穴内部薄) | 電流集中・電場分布不均一 | 軽い面取りR、治具最適化、補助陽極の配置、回転/揺動、必要に応じ無電解銅で下地形成→酸性銅で増膜 |
| 内蔵流路・盲穴の不良 | 回り込み不足、排液不良 | 設計段階から排気/排液穴を付与、流路径を余裕設計、処理中の姿勢管理・エア抜き |
| はんだ不良・接触抵抗上昇 | 酸化・硫化、粗さ・汚染 | 軽い活性化→即時はんだ・組立、必要に応じNiバリア→Sn/Au等、保管は乾燥密閉 |
材質別の下地処理とストライク例
- ステンレス(例:SUS316L):脱脂→酸洗→ウッズNiストライク→酸性銅。狙い:不動態膜を破り密着確保。
- チタン(Ti-6Al-4Vなど):脱脂→適切な活性化(フッ化物系など※取扱注意)→NiまたはCuストライク→酸性銅。狙い:強固な酸化皮膜に食いつく足場作り。
- ニッケル基合金(インコネル718等):脱脂→酸活性→Niストライク→酸性銅。狙い:表層酸化・析出物を除去し均一析出。
- アルミ系(バインダージェット後焼結など):脱脂→ジンケート処理→Ni/Cuストライク→酸性銅。狙い:酸化被膜に対する置換下地。
注意:各前処理薬品は材質依存・安全規制に従います。試作段階で小片テストを推奨。
前加工で仕上がりが決まる(粗さ・孔・粉)
- 粗さ整え:面取りR、サンドブラスト/ブラシ/バレル、必要に応じ電解研磨や化学研磨で平滑化。
- 孔の封止:多孔質品は樹脂含浸(真空含浸)でガス抜け・液溜まりを抑制。
- 残留粉末の除去:超音波洗浄と内流路のフラッシング(圧空・逆洗)を組み合わせる。
プロセス設計のコツ
- 段階的に立ち上げ:低電流密度→中電流へ。急激な高電流はブリスターの温床。
- 無電解+電解の併用:複雑形状は無電解銅で連続皮膜を作り、その後酸性銅で効率増膜。
- 治具・補助電極:角過厚や奥まった部位の薄付きを同時に是正。
- ベーキング:めっき前の脱ガス、めっき後の水素脆化対策(高強度材は特に)。
発注前チェックリスト
- 素材と造形法:例)SUS316L(LPBF)、Ti-6Al-4V(EBM)など。
- 内部形状の有無:流路・盲穴・メッシュの有無、排液穴の計画。
- 表面状態:現状粗さ、前加工可否(面取り・ブラスト・電解研磨)。
- 狙い機能:導電/放熱/はんだ/外観(優先度)。
- 仕上げ指定:銅のみ/Niバリア+Cu/Cuの上にSn/Auなど。
- 膜厚と重要寸法:めっき後寸法の基準、公差・測定点。
- 検査:外観、膜厚、密着(テープや曲げ)、必要なら導通・熱抵抗。
- 数量・納期:試作→量産の段取り、ロットまとめ可否。
応用例
- 放熱部品:3Dプリントヒートシンク外面にCuで熱拡散、接触面はNi→Snで接合安定。
- 電磁シールド:軽量格子部材にCuで導電層、内部流路は排液設計で均一化。
- 電子実装:端子部のみ選択的にCu→Snではんだ性を向上(その他はマスキング)。
よくある質問
Q. 3Dプリントのまま(未加工)に銅めっきできますか?
可能な場合もありますが、粗さ・多孔質・粉残りが不良の主因です。面取り・洗浄・含浸などの前加工を推奨します。
Q. 内部流路の中まで均一にめっきできますか?
流路径・長さ・屈曲によります。排液穴・補助電極・無電解併用で改善できますが、設計情報が重要です。
Q. 銅の上にニッケルや金を重ねるべき?
外観・耐変色・はんだ/接点用途なら、Niバリア→Sn/Auなどの重ねで性能が安定します。