ニッケル(Ni)めっきは、耐食・外観・拡散バリアに優れますが、膜厚の決め方と測り方、そして図面の書き方次第で品質もコストも大きく変わります。今日から使える実務ポイントをやさしく整理します。
3つのポイント
- 膜厚は「めっき後寸法」で設計(後加工なし前提での寸法基準を明記)。
- 測定点を限定し、合否基準を明確化すると手戻りと測定コストが下がる。
- 多層Ni(半光沢+光沢等)は耐食に有効。必要層だけを選び過剰仕様を避けるのがコスト最適化の近道。
膜厚設計の基本
| 検討項目 | 狙い | ポイント |
|---|
| 用途と寿命 | 必要性能の見極め | 外観/耐食/拡散バリア/接点/はんだ どれを最優先? |
| 層構成 | 性能・コストの両立 | 単層Niか、多層Ni(半光沢+光沢など)かを用途で選択 |
| 膜厚の“分布” | ムラの理解 | 角・エッジは厚く、深穴は薄くなりやすい→面取りR・補助電極 |
| 測定方法 | 再現性のある管理 | 蛍光X線(非破壊)やクーロメトリー(破壊)を用途で選ぶ |
| 図面の表現 | 解釈ブレの解消 | 「測定点」「合否値」「除外部位」を明記(ねじ・隙間等) |
コスト最適化のレバー(効く順に整理)
- ① 過剰膜厚の削減:性能に効かない上乗せを止める。見せ面のみ等級を上げ、非見せ面は標準化。
- ② 測定点の最小化:「代表点2〜3点+要注意部位」に限定。測定時間=コスト。
- ③ 形状配慮:軽い面取りR、排液/排気穴でムラ低減→再処理・不良率↓。
- ④ 層構成の適正化:半光沢Ni+光沢Niが不要な用途では単層Niへ簡素化。
- ⑤ ロット計画:同仕様をまとめて依頼(段取り回数↓、薬液条件の安定↑)。
測定・検査の決め方(再現性重視)
- 非破壊(蛍光X線):現物を傷つけずに多数点を素早く測定。薄物・多点管理に向く。
- 破壊(クーロメトリー):実厚を高精度確認。代表サンプルでの裏取りに。
- 外観:検査距離・照明を取り決め、見せ面の等級を明確に。
- 合否の書き方:例)「測定点A/B/C:Ni 平均 t=○μm 以上。エッジ±××は除外」
図面・見積でそのまま使える雛形
(例)
めっき仕様:Niめっき[単層/半光沢Ni+光沢Ni]/見せ面は研磨仕上げ。
膜厚:測定点A,B,CでNi t=○μm以上(エッジ・角R±××mm、ねじ山・嵌合・シール面は除外)。
検査:外観(見せ面等級○)、膜厚(蛍光X線)、必要に応じ密着(テープ)/耐食(NSS/CASS)。
形状配慮:角はR約××、深穴は排液穴を設ける。
治具痕:非見せ面側に配置。
めっき後寸法:図面寸法はめっき後基準。
ケース別の設計ヒント
- 外観重視:半光沢Niで土台→光沢Niでツヤ。見せ面だけ高等級、非見せ面は標準。
- 耐食重視:多層Ni(電位差設計)で点食抑制。過剰な総膜厚より層構成の最適化。
- 拡散バリア:Cuの上に連続的なNi層を確保。上層にSn/Auなどを用途で選ぶ。
- 接点・はんだ:Niの上に用途適合の表面(Au/Tin)。必要最小厚でコスト抑制。
発注前チェックリスト
- 目的:外観/耐食/拡散バリア/接点/はんだ(優先順位)
- 基材・形状:鉄/SUS/Cu合金/アルミ/樹脂、角R・深穴・盲穴の有無
- 層構成:単層Ni or 多層Ni(半光沢+光沢 等)
- 膜厚:代表測定点と合否値(μm)を明記。除外部位を併記。
- 検査:外観、膜厚、必要に応じ密着・耐食(NSS/CASS)
- 見せ面/治具痕:写真・スケッチで指定
- 数量・納期:試作→量産の段取り、同仕様のまとめ依頼の可否
よくある失敗と対策(早見表)
| 症状 | 主因の例 | 対策 |
|---|
| 寸法超過 | めっき前寸法で図面化、過剰膜厚 | めっき後寸法で図示、必要最小膜厚に見直し |
| 厚みムラ(角過厚・穴薄) | 電流集中、排液不良 | 面取りR、治具・補助電極、姿勢管理、排液/排気穴 |
| 再現性の悪い測定 | 測定点が曖昧、方法が混在 | 測定点の座標化、方法固定(XRF or クーロメトリー) |
| コスト高止まり | 過剰仕様、測定過多、小ロット分散 | 層簡素化、測定点削減、同仕様をまとめて依頼 |
Q&A
Q. 標準の推奨膜厚は?
用途・寿命・層構成・設備で変わります。業界横断の一律値は本記事時点では確認できていません。目的と環境を共有し、提案値で合意してください。
Q. 単層と多層、どちらが安い?
一般に単層Niは工程が簡素で有利。耐食や外観要求が高い場合のみ多層を検討。
Q. 測定は非破壊で十分?
量品は非破壊(XRF)が便利。立ち上げ時や係争時は代表サンプルで破壊測定の裏取りが安心です。
まとめ
- 目的→層構成→膜厚→測定点の順で決めるとムダが出にくい。
- 「見せ面集中・非見せ面標準」のメリハリ設計でコストを抑える。
- めっき後寸法・測定点の明記が、品質安定とコスト最適化の鍵。
免責・不明点
- 本記事は一般的な目安です。膜厚・層構成・測定法・価格・納期は品物・数量・設備で変わります。
- 規格や試験法は改定されます。運用時は最新の公式原典をご確認ください。
- 一部の詳細数値の業界統一基準は用途・地域で異なり、本記事時点では確認できていません。
最終更新:2025年11月26日(日本時間)。本記事は本記事時点の公知情報に基づいています。