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コラム
COLUMN
2025.11.07

海外市場で要求されるクロムめっき規格と日本企業の対応

更新日:2025.12.11

装飾・機能用途のクロムめっきは、国際規格(ISO)と各地域の環境・労働安全規制を同時に満たす必要があります。本記事は、欧州・米国の主要要件と、図面・工程・サプライチェーンでの実務対応を簡潔に整理します。

ポイント

  • 国際規格で性能を定義装飾クロムやNi/Cr多層は ISO 1456、硬質(エンジニアリング)クロムは ISO 6158 を基準に、ISO 2064・ISO 3497 などで膜厚定義・測定法を揃える。
  • 化学規制は地域差に注意EUの RoHS は六価クロム0.1 wt%上限、REACH ではクロム酸(CrO3等)の認可管理が継続課題。米国では OSHA のCr(VI)ばく露基準、カリフォルニア州は装飾用途の六価クロム段階的廃止が進行中。
  • 図面・工程・監査を「書面化」仕様記号(例:基材/前処理/Cr記号の順)、測定点、RoHS/REACH適合声明(DoC)、作業環境測定(Cr(VI))を定型フォーマットで維持する。

主要規格・規制の要点(海外向けの最低限)

区分要件(抜粋)実務での勘所
ISO 1456(装飾Ni/Cr)鉄・非鉄上の装飾Ni/CrやCu/Ni/Crの要求事項(外観・耐食など)。多層Niやマイクロポーラス/クラックCrの使い分け。図面で層構成・最小膜厚を明記。
ISO 6158(硬質Cr)下地有無を含む金属クロム電着の要求事項・記号体系。記号は「基材/ストレスリリーフ/コーティング列」の順で表記(標準の付記参照)。
ISO 2064・ISO 3497膜厚の定義・最小厚の規則(2064)、XRFによる膜厚測定法(3497)。XRF校正片の管理、A/B/C測定点の固定、平均/局所厚の定義を統一。
JIS H 8617(参考)NiめっきおよびNi–Cr(日本)※ISO 1456との対応確認。国内試作・量産の整合確認用に参照。
EU RoHS(2011/65/EU)六価クロム(Cr(VI))は 0.1 wt%以下(附属書II)。材料・薬剤のSDSと工程残留のエビデンスをセットで保管。
EU REACH(CrO3等)認可対象の使用は許可期間・条件に依存(用途別ガイダンス)。サプライヤーの認可番号・用途適合の証憑を取得し、継続性をレビュー。
米国 OSHA 29 CFR 1910.1026Cr(VI)の PEL=5 µg/m³(8h TWA)。監視・保護具・教育等。排気・密閉化・局排の設計、作業環境測定と記録化が必須。
CARB(カリフォルニア州)2023年改正ATCM:装飾用途から六価クロム段階的フェーズアウト(2024年施行開始)。三価クロム/PVD等の代替採用計画を顧客と合意。ローカル規制の適用日を都度確認。

図面・見積にそのまま使える雛形

仕様表記例(硬質Cr:ISO 6158記法の考え方)
Fe/SR//Ni/Cr t=○μm(測定点A/B/C、ISO 2064準拠で最小膜厚評価、XRF=ISO 3497)。見せ面の外観等級・照度○lx・距離○cm、ねじ・嵌合・シール面は除外。RoHS適合(Cr(VI)≤0.1 wt%)とREACH関連薬剤の使用可否を添付DoCで提示。

製品カテゴリ別の実務ポイント

  • 自動車外装・加飾:装飾Ni/CrはISO 1456で層構成を規定し、色調は見本で合意。米州向けは州規制(CARB)に合わせ三価CrやPVD代替を計画。
  • 機械部品(摺動):硬質CrはISO 6158準拠。角過厚対策(R付け、補助電極)と研磨条件を作業標準に固定。
  • 電気・電子部品:RoHSのCr(VI)制限を前提に、材料証明・工程証跡・サプライヤー宣言の3点セットを維持。

サプライチェーン/監査の対応パッケージ

  • 化学物質管理:REACH認可物質(CrO3等)使用の有無、供給者の認可情報・用途適合の最新化。
  • 労働安全:Cr(VI)ばく露測定、局排・封じ込め、教育記録(OSHA準拠)を整備。
  • 測定機器:XRF校正とトレーサビリティ(ISO 3497)。検査写真・測定点スケッチの添付を標準化。

よくある質問(Q&A)

Q. 六価クロムはEUで全面禁止ですか?
いいえ。材料中のCr(VI)はRoHSで0.1 wt%上限が基本です。工程薬剤としてのCr(VI)(例:CrO3)はREACHの認可制度で用途・期間条件下の運用が続いています。製品用途・適用除外の有無を最新原典で確認してください。

Q. 米国向けで先にやるべきことは?
作業環境中Cr(VI)の8h-TWA 5 µg/m³以下(OSHA)を満たす設備・測定・教育体制の整備。カリフォルニア州向けはATCM改正のスケジュールを都度確認し、代替技術の検証計画を準備します。

免責・不明点

  • 規格・法令は改定されます。実運用時は必ず最新の原典をご確認ください。
  • 国・州・業界ごとに運用解釈や期日が異なる場合があり、本記事では一律の期限や免除条件は確認できていません

参考情報(出典)

  • ISO 1456(装飾Ni/Crの要求事項)
  • ISO 6158(硬質Crの要求事項・記号)
  • ISO 2064(膜厚定義の一般原則)
  • ISO 3497(XRFによる膜厚測定)
  • EU RoHS(六価クロム 0.1 wt% 上限)
  • EU REACH(CrO3 等の認可)
  • OSHA 29 CFR 1910.1026(Cr(VI) ばく露基準)
  • CARB Chrome Plating ATCM(カリフォルニア州)
  • JIS H 8617(参考:国内Ni/Cr規格)

最終更新:2025年12月11日(日本時間)。

投稿者プロフィール
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ネオプレテックス株式会社
群馬県高崎市にある老舗のめっき会社。クロムめっき、ニッケルめっき、銅めっきなどを手掛ける。
大型の層を配備しており、長尺物などに対応可能。