密着不良(剥がれ・浮き・ブリスター)は、めっき品質トラブルの中でも再発しやすい代表例です。原因は「前処理」「活性化」「層間の酸化」「浴条件」「電流条件」「乾燥・熱履歴」に集約できます。本記事では、クロムめっき/ニッケルめっきで起きやすい原因を整理し、現場で使えるチェックリストに落とし込みます。
専門用語解説
- 前処理:脱脂・研磨・酸洗いなど、めっき前に表面を「清浄・活性」状態にする工程。
- ストライク:密着を良くするための薄い下地めっき(例:ウッズニッケルなど)。
- ドラッグイン:前の槽の薬液が次の槽へ持ち込まれること(浴汚染・不具合の原因)。
ポイント:密着不良の原因はこの6分類で潰せます
- ①表面に残る油・研磨粉・酸化膜(脱脂不足/洗浄不足)
- ②活性化不足 or 過剰(酸洗い条件不適・スマット残り)
- ③層間の酸化(工程待ち・乾燥・手触り・水切れ)
- ④浴条件の逸脱(温度・pH・金属濃度・添加剤・ろ過)
- ⑤電流条件の不適合(電流密度、立上げ、撹拌、治具接触)
- ⑥熱履歴・応力(乾燥温度、研磨熱、厚付け応力、後処理)
原因別チェックリスト(Yes/Noで潰す)
| 症状 | 原因(確定しやすい順) | 確認方法(現場で即できる) | 対策(標準化ポイント) |
|---|
| めっき直後に剥がれる | 脱脂不足/活性化不足/治具接触不良 | 水濡れ(弾く=油膜)、治具の通電痕、脱脂槽の汚れ | 脱脂条件固定(温度・時間)、超音波/噴流、治具接点の清掃と定期交換 |
| 局所だけ浮く(点状) | 研磨粉・異物付着/素材欠陥(鋳巣等) | 浮き位置が毎回同じか、素材面のピンホール確認 | 研磨→洗浄→リンスの間隔短縮、最終洗浄を規格化、素材受入の外観基準 |
| ブリスター(ふくれ) | ドラッグイン/リンス不足/ガス巻込み | リンス導電率の測定、槽間の滴下時間が守れているか | 2段リンス・滴下時間の固定、撹拌条件見直し、ろ過とスキミング |
| 層間剥離(Ni→Cr、Cu→Ni) | 層間酸化(待ち時間・乾燥・手触り) | 工程待ちの記録、乾燥工程の有無、手袋運用 | 層間は「濡れたまま次工程」原則、工程待ち上限を決める、活性化ディップを標準化 |
| 端部・角だけ剥がれる | 電流集中(焼け)/過大電流/補助電極不足 | 端部が黒化・粗化していないか、電流立上げが急でないか | 面取りR、電流ランプ制御、補助電極・遮蔽板、治具姿勢の固定 |
| 後工程(研磨・曲げ)で剥がれる | 内部応力/膜厚過大/熱履歴 | 剥がれが加工部に集中、ロットで膜厚ばらつき | 膜厚上限を設定、浴管理で応力を抑制、研磨条件(圧・熱)を規格化 |
クロムめっきで特に起きやすい「3つの落とし穴」
- Ni→Crの層間酸化:ニッケル表面は待ち時間や乾燥で酸化しやすいので、工程待ち上限を決めて記録します。
- 活性化の抜け:クロム槽に入る直前の表面状態が密着に直結します。活性化ディップの条件(濃度・時間・温度)を固定し、日常点検項目に入れます。
- 焼け(端部の過大電流):角・エッジは電流が集中します。面取りR+立上げ制御+補助電極をセットで運用します。
ニッケルめっきで特に効く「再発防止の標準化」
- 前処理の“間”を詰める:脱脂→リンス→活性→めっきの間隔が伸びるほど再汚染します。槽間搬送ルール(最大○分)を決めます。
- 浴管理は「温度・pH・ろ過」を毎日固定:ニッケル浴は条件ズレが外観と密着の両方に出ます。記録がないと原因が確定できません。
- 治具と接点の管理:通電が不安定だと局所的に欠陥が出ます。接点は消耗品として交換周期を決めます。
10分でできる切り分け手順(現場用)
- Step1:不良位置をマッピング(毎回同じ場所=素材/治具、ランダム=前処理/浴)。
- Step2:水濡れ確認(油膜の有無)→脱脂条件を疑う/確定。
- Step3:工程待ち時間を確認(層間剥離なら最優先)。
- Step4:浴の当日データ確認(温度・pH・ろ過・補給履歴)。記録が無い場合、原因は確定できていないと扱う。
- Step5:端部集中なら電流条件・補助電極・面取りを優先是正。
受入・出荷前の「密着確認」について
密着の評価法は、対象(膜種・膜厚・基材・形状)で適否が変わります。代表的には、テープ試験、クロスカット、引張(プルオフ)、曲げ・熱衝撃・ヤスリ・チゼルなどの定性試験があります。どの試験を採用するかは、顧客仕様や社内規格で決め、図面や検査要領書に明記します。