めっき工場の環境対応は「法律を守る」だけでなく、水・薬品・金属をムダにしない設計 へ移っています。ポイントは、①廃液を混ぜない(分別)②危険成分は確実に無害化③金属を回収して廃棄量を減らす 、の3つ。本記事では、めっき廃液の基本と、近年重視されている“持続可能な表面処理”の考え方を、現場チェックリスト付きで整理します。
まず押さえる:めっき廃液は「成分ごとに処理が違う」
めっき廃液は、同じ「排水」でも中身がバラバラです。処理方法は、含まれる成分で変わります。
クロム系 : 六価クロム(Cr(VI))を含む可能性。基本は還元→沈殿除去 。
シアン系 : シアン化合物を含む可能性。基本は酸化分解 。
重金属系 : Ni、Cu、Znなど。基本は中和・凝集沈殿→ろ過 。
酸・アルカリ : pHが極端。基本は中和 。
有機物・添加剤 : 光沢剤など。処理を難しくすることがあり、活性炭や分離処理 が検討対象。
法規制の「最低ライン」を誤解しない
日本では、水質汚濁防止法の「一般排水基準」がベースになります。さらに、自治体の上乗せ基準 や、下水放流(下水道)か河川放流か で要件が変わります。 例として、一般排水基準(有害物質)の許容限度には、六価クロム化合物 0.2 mg/L 、シアン化合物 1 mg/L 、鉛 0.1 mg/L 、カドミウム 0.03 mg/L などが示されています。
また、六価クロムの排水基準は2024年4月1日施行で 0.5 mg/L → 0.2 mg/L へ改正された旨が自治体等で案内されています。
めっき廃液処理の基本フロー(現場で一番効く順番)
①分別する: クロム系、シアン系、重金属系、酸・アルカリを混ぜない (混ざるほど難しくなります)。
②無害化する: 六価クロムは還元、シアンは酸化など、成分に合わせた前処理 を行う。
③中和・凝集沈殿: 重金属を水酸化物として沈殿させ、フロック化して分離。
④固液分離: 沈殿→ろ過(フィルタープレス等)で汚泥を回収。
⑤仕上げ: 必要に応じて、砂ろ過・活性炭・イオン交換などで微量成分を低減。
⑥汚泥を適正処理: 分析・区分・マニフェスト管理を行い、適切な処理業者へ委託。
「持続可能」にする最新動向:いま注目される4つの方向性
1) 廃液を減らす(発生抑制)
リンス回数・流量の最適化(必要以上に水を使わない)
ドラッグアウト(持ち出し)低減:滴下時間の固定、治具形状の見直し
2) 金属を回収する(資源循環)
排水処理は「捨てる」だけでなく、回収して戻す 発想が増えています。例として、イオン交換樹脂で希少金属を回収する取り組みや、汚泥の脱水・減容化で処理費を下げる取り組みが報告されています。
3) “見える化”で不良ロットを作らない(ログ管理)
pH・温度・ORP(酸化還元)・流量・ろ過差圧などを記録し、逸脱時にアラート
薬品補給量・廃液量・汚泥量を月次で集計(コストと環境負荷が同時に見える)
4) 国際的には「BAT(最良利用可能技術)」が更新され続けている
EUでは表面処理分野(Surface Treatment of Metals and Plastics)のBAT文書が見直し・更新されており、排水・薬品・資源効率の管理が重視されています。海外取引がある場合は、顧客要求として波及することがあります。
現場チェックリスト:最低限ここは毎日確認
分別: クロム系・シアン系・重金属系が混ざっていない(配管・ピット含む)
計測: pH、温度、(必要なら)ORP、ろ過差圧が基準範囲
薬品: 還元剤・酸化剤・中和剤・凝集剤の在庫と投入記録が取れている
固液分離: 沈殿槽の滞留、ろ過の目詰まり、脱水ケーキの含水率が異常でない
汚泥: ラベル、保管区画、漏えい対策、委託先、マニフェストが整合
異常時: 止める判断基準(誰が停止できるか)が決まっている
よくある失敗と対策(短く)
つまずき 起きやすい原因 対策 数値が安定しない 流入濃度が日で変動/分別が不十分 分別の徹底、バッファ槽で均一化、ログで原因特定 沈殿しない・濁る pHが合っていない/キレート影響 pH管理の固定、凝集条件の再設定(工程別に分ける) 汚泥が増えすぎる 過剰薬品投入/水使用量が多い 投入量の基準化、リンス最適化、脱水・減容化 委託費が高騰 含水率が高い/区分が曖昧 脱水強化、成分情報を整理、適正区分で委託
免責・不明点
排水基準は、放流先(公共用水域/下水道)や自治体条例で変わります。最終判断は所管自治体・下水道管理者・法令確認が必要です。
有機添加剤やキレート剤の影響は、浴組成・製品で大きく変わります。処理条件の最適値(薬品量・pH範囲など)について、本記事では一律値を確認できていません 。
参考情報(出典)
環境省:一般排水基準(有害物質の許容限度) https://www.env.go.jp/water/impure/haisui.html
静岡市:近年の水質汚濁防止法の改正(六価クロム 2024/4/1施行の説明) https://www.city.shizuoka.lg.jp/s5382/s012241.html
EU JRC:BAT reference documents(STM BREFの更新情報) https://bureau-industrial-transformation.jrc.ec.europa.eu/reference
EU JRC:Surface Treatment of Metals and Plastics(STM BREF D1 2025-02 PDF) https://eippcb.jrc.ec.europa.eu/sites/default/files/2025-02/STM%20BREF_D1_%20BW-bref.pdf
経済産業省:PRTR排出量等算出マニュアルQ&A https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/law/qa/manual_faq.html
環境省:PRTR届出の手引き(2025年版) https://www.env.go.jp/chemi/prtr/notification/submit/tebiki/tebiki_all.pdf
環境省:特別管理産業廃棄物の種類及び判定基準等(PDF) https://www.env.go.jp/content/900534406.pdf
METI:令和6年度 中小企業等産業公害防止対策等調査(資源循環・汚泥減容等の事例) https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2024FY/1000101.pdf
最終更新: 2025年12月19日(日本時間)。