ネオプレテックス株式会社
コラム
COLUMN
2025.04.11

クロムめっきの膜厚設計とは?耐久性を左右するポイント

更新日:2025.10.31

本記事は「クロムめっきの膜厚設計」を短時間で把握したい方向けに、用途別の厚み目安耐久性を左右する実務ポイントを、規格や公開資料に基づいて整理したものです。最後に参考情報と免責をまとめてあります。

クロムめっきの基本

装飾クロム(Ni/Cr系)

外観と耐食性が目的。耐食性はニッケル層の総厚・多層化が鍵で、クロムは微小割れ/多孔により電位差を分散し、下地Niの局部腐食集中を抑えます。屋外・自動車外装では半光沢Ni+光沢Ni等の多層Ni+Cr 0.25〜0.3µmが実務の起点です。

工業用(ハード)クロム

耐摩耗・寸法復元・焼付き防止が目的。接触圧・摩耗量・仕上げ研磨を考慮し、10〜50µm(一般機械)、50〜200µm(ロール・シリンダ等の復元)を目安に設定。図面はCr50hrのように厚さとタイプを記号で指定します。

代表的な膜厚レンジ(実務の出発点)

※最終仕様は基材・形状・前処理・環境・検査条件で変わります。以下は規格・公開資料に基づく「起点」の目安です。

用途目安の膜構成・厚み補足
室内装飾部品Ni 10〜20µmCr 0.25〜0.3µm微小割れ/多孔の管理が有効
屋外・自動車外装Ni 20〜30µm(多層)Cr 0.3µm半光沢Ni+光沢Ni 等の多層Niが一般的
工業用(耐摩耗)Cr 10〜50µm相手材・面圧・摩耗量で最適化
工業用(寸法復元)Cr 50〜200µm+研磨代必要により更に厚付け

耐久性を左右する設計ポイント

  • 下地ニッケル:総厚と多層化(半光沢Ni+光沢Ni 等)で耐食を確保。Ni不足はピンホール到達を早めます。
  • クロム層の微小割れ/多孔:腐食電流を微小サイトに分散し、Niの犠牲腐食集中を抑制。装飾では0.25〜0.3µm付近で管理。
  • 水素ぜい化対策:厚付け・高強度鋼ではめっき前応力除去めっき後ベーキング(材質・規格に準拠)を設定。
  • 仕上げ・研磨代:ハードCrは研磨前提。必要余肉を上乗せ。粗さ・硬さ・密着性の受入基準を図面に明記。
  • 測定・検査:断面法(ISO 1463)、XRF(ISO 3497/ASTM B568)など。塩水噴霧(ISO 9227/ASTM B117)は比較・工程管理目的で用い、寿命換算には使わない。

図面への書き方(例)

  • 装飾(屋外・鉄系)Fe/Cu20/Ni30/Cr0.3(microcracked) = 銅20µm+ニッケル30µm+クロム0.3µm(微小割れ)
  • 工業用(耐摩耗・50µm)Fe//Cr50hr = 鉄基材にハードクロム 50µm(regular)

よくある誤解と回避策

  • 「Crだけ厚くすれば耐食が上がる」→誤り。装飾系ではNi設計が主役。Crのみの厚付けは効果が限定的。
  • 「塩水噴霧の○時間=実環境○年」→誤り。加速試験は相対比較工程安定化に用いる。
  • 厚付けで割れ/はく離→下地粗さ・清浄度・前後熱処理・研磨代の設計を総点検。

結論

  • 装飾クロムは耐食性の主役がニッケル下地。起点はNi合計20〜30µm+Cr 0.25〜0.3µm(微小割れ/多孔)が一般的。
  • 工業用(ハード)クロムは目的別に10〜100µm超で設計し、図面はCr◯◯hr等の厚さ記号で明示。
  • 塩水噴霧試験は比較・工程管理用で、実環境寿命に直結しない。厚付け時は水素ぜい化対策(前後熱処理)が必須。

参考情報・免責

・装飾Ni/Crの指定(多層Ni・微小割れCr 等):ISO 1456:2009
・装飾Ni/Crの最低膜厚例(Cr 0.25µm など):ASTM B456
・工業用(ハード)クロムの表記・評価(例:Cr50hr):ISO 6158:2018
・断面法(局所膜厚測定):ISO 1463:2021 / XRF:ISO 3497
・塩水噴霧の考え方:ISO 9227ASTM B117
・装飾Ni/Crの実務解説:Nickel Plating Handbook(Nickel Institute)

免責:本記事は公開規格・資料に基づく設計の出発点を示すもので、特定用途での性能を保証するものではありません。最終仕様は使用環境・基材・工程能力・検査条件を踏まえて図面・受入基準として関係者間で合意してください。規格や法令・指針は改定されるため、最新版の確認をお願いします。個別製品・現場条件の詳細データについては確認できていません

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群馬県高崎市にある老舗のめっき会社。クロムめっき、ニッケルめっき、銅めっきなどを手掛ける。
大型の層を配備しており、長尺物などに対応可能。