めっきは導電・はんだ性・平滑化に有効ですが、密着不良(剥離・ブリスター)は多くが前処理で決まります。とくに酸化皮膜・変換皮膜・熱変色・油分・加工粉の残存は失敗の主要因です。本記事は、素材別・処理履歴別の前処理の考え方と失敗を減らす段取りを要点整理します。
ポイント
- 「清浄・活性・ストライク」の三段で密着を作る(洗浄→活性化→薄付けで“噛ませる”)。
- 素材と履歴に合う活性化剤を使う(SUS=酸活性+Niストライク、Al=ジンケート等)。
- 搬送は短く、リンスは多めに(活性化後の再酸化防止/異物持ち込み防止)。
密着不良の主因と対策(早見表)
| 症状 | 主因 | 前処理の方向性 |
|---|
| 全面/部分剥離 | 油・ワックス、酸化皮膜、変換皮膜の残存 | アルカリ脱脂→超音波→酸性活性→ストライク(Ni/Cu) |
| ブリスター(ふくれ) | ガス・水分・粉の持込み、孔への液トラップ | 十分なリンス・乾燥、予備ベーク(脱ガス)、含浸(多孔質品) |
| 局所の密着不良 | 研磨焼け、ショット/バレル粉、指紋 | 再研磨→洗浄→活性→即ストライク、搬送短縮 |
| 内面だけ剥がれる | 回り込み不足、排液・乾燥不良 | 姿勢管理、排液/排気穴、揺動・循環、無電解→電解の併用 |
基本フロー(汎用)
- ① 前処理・洗浄:アルカリ脱脂→水洗→(必要に応じ)電解脱脂→水洗
- ② 活性化:材質に適合した酸活性/置換処理→水洗
- ③ ストライク(薄付け):NiまたはCuの低電流・短時間で“噛ませる”→水洗
- ④ 本めっき:酸性銅(硫酸銅)などで所定膜厚へ
素材・処理履歴別:前処理の勘所
鉄・低合金鋼
- アルカリ/電解脱脂→酸活性(希塩酸など)
- CuストライクまたはNiストライクで密着を作る
- 高強度鋼は水素脆化対策で低温ベーク検討
SUS(ステンレス)
- 不動態膜が強い→酸活性(混酸系など)
- ウッズNiストライク→酸性銅で本付け
- 熱変色(焼け色)は研磨/酸洗で確実に除去
銅・銅合金
- 軽い酸洗で酸化・変色をリフレッシュ
- 添加剤/油分を十分に除去→短時間で本付け
- 脱亜鉛(黄銅の脱亜鉛腐食)跡は表面再生成が有効
アルミ・アルミ合金
- アルカリ脱脂→ジンケート処理(単/二重)
- NiまたはCuストライク→酸性銅へ
- アルマイト等の変換皮膜は完全除去が前提
亜鉛ダイカスト
- 脱脂→軽い酸活性→Cu/Niストライク
- 巣・多孔質は含浸(真空含浸)でブリスター抑制
- 鋳肌の粗さはバレル/ブラストで整える
チタン・ニッケル基合金
- 強固な酸化膜→適切な活性化(取扱注意)
- Niストライク→Cuの順が安定
- 試作は小片テストから開始
「表面処理後」ならではの注意点
- 変換皮膜・塗装・黒染め・リン酸塩皮膜は原則除去してから(界面弱化の回避)。
- 熱処理後の酸化スケールは機械+化学で確実に落とす(研磨→酸洗→活性)。
- ショット/バレル後の粉・メディア破片は超音波+多段リンスで排除。
- 3Dプリント金属(多孔質)は含浸や予備ベークで脱ガス・孔埋めを検討。
ストライク浴の考え方
- Niストライク:SUS/難付着材の“噛みつき”に有効。
- Cuストライク:鉄・亜鉛系などで本付け(酸性銅)への足場。
- 低電流・短時間・薄付けが原則(粗い結晶で食いつかせるイメージ)。
- 環境・安全要件に配慮し、設備指示に従う薬剤を選定。
発注前チェックリスト
- 素材と履歴:例)SUSの熱処理後/Alのアルマイト除去済み/亜鉛ダイカスト 等
- 目的:導電/はんだ/外観(優先順位)
- 形状:深穴・盲穴・細溝の有無、排液/排気穴の可否
- マスキング:ねじ・嵌合・シール面の除外指定
- 膜厚と測定:代表点A/B/Cで Cu t=○μm以上(エッジ±○mm除外)
- 検査:外観、膜厚、必要に応じ密着(テープ/曲げ)、導通/はんだ
- 数量・納期:試作→量産、同仕様のまとめ依頼可否
簡易密着評価(現場でできる目安)
- テープ試験:指定テープを一定圧で貼り、一定角で剥離。剥がれの有無を確認。
- 曲げ/擦り:薄肉片で軽い曲げ・擦り評価(外観影響に注意)。
- はんだ濡れ:用途により濡れ広がりで界面健全性を推定。
よくあるQ&A
Q. 表面処理(黒染め/アルマイト/リン酸塩)の上にそのまま銅めっきできますか?
原則不可です。皮膜を除去し、基材を活性化してからストライク→本めっきへ。
Q. ふくれ(ブリスター)が出ます。
孔の液溜まり・脱ガス不足・粉残りが原因のことが多いです。含浸や予備ベーク、リンス強化、姿勢見直しが有効です。
Q. 3Dプリント金属でも密着させられますか?
可能性はあります。粗さ整え→洗浄→活性→Ni/Cuストライクと、必要に応じ無電解→電解の併用を検討してください。