ネオプレテックス株式会社
コラム
COLUMN
2025.11.14

銅めっきの熱交換器用途への展開 ― 導熱性と耐久性の両立設計

更新日:2025.12.11

銅(Cu)は高い熱伝導率と抗菌性で、熱交換器(冷凍空調・電子冷却・温水設備・化学プロセス)に適します。本記事は銅めっき(Cuめっき)を熱交換器部品へ適用する際の層構成・腐食対策・伝熱性能設計・検査を要点整理します。

ポイント

  • 伝熱は「薄く・平滑」に:Cu層は必要最小厚+平滑仕上げで熱抵抗を抑える。粗さ・酸化皮膜の管理が実効熱抵抗を左右。
  • 耐久は「環境別のバリア」で決まる冷却水・海水・グリコール・凝縮水など媒体に合わせ、Niバリア/錫仕上げ/封孔などを選択。
  • 電食を事前に封じる:Al/Feと組合せる場合は犠牲陽極・絶縁・流路材質の組合せガルバニック腐食を抑える。

銅めっきを使う狙い(熱交換器での効果)

  • 高い熱伝導性:母材(Fe/ステンレス/Al)の表面にCu層を与え、はんだ付け性・接触熱抵抗の低減を狙える。
  • 濡れ性の改善:沸騰・凝縮面での濡れ性調整(微細粗さ・化学状態)により伝熱係数の最適化が可能。
  • 抗菌・防汚の補助:水路の生物付着抑制に寄与する場合がある(ただし一律の効果量は本記事では確認できていません)。

層構成の代表例(媒体・母材別)

用途/媒体母材推奨層構成例設計メモ
冷却水(淡水)Fe系/ステンレスNiストライク→Cu t=○–○ μm(薄付け)熱抵抗低減重視。粗さ管理(Ra=○.○μm)。
海水・塩分高水Fe系Niバリア t=○ μm→Cu t=○ μm→封孔/保護皮膜孔食・隙間腐食対策。流速と塩分で評価。
グリコール系冷媒Al/FeNiバリア→Cu薄層→Sn仕上げ(必要時)長期の変色・酸化抑制。はんだ性確保。
凝縮面(電子冷却)Cu合金/FeCu微細テクスチャ(薄層)濡れ性・核生成点を制御(均一性重視)。
蒸気接触部Fe系Ni下地→Cu→必要に応じ薄Cr指紋/汚れ・酸化抑制(外装側)。

腐食・耐久設計の勘所

  • 電食(ガルバニック)対策:CuとAl/Feの直接接触は腐食電位差で不利になりやすい。絶縁ガスケット、非導電コーティング、犠牲陽極のいずれかを併用。
  • エロージョン・コロージョン:高流速・固形粒子混入で局部損傷が進む。許容流速の管理・入口での整流・ろ過を前提化。
  • 微生物腐食(MIC):停滞域・低流速・温度条件でリスク増。定期フラッシング・バイオサイド運用を手順化。
  • 皮膜・変色:運転休止中の酸化・硫化で熱抵抗増。軽防錆皮膜・乾燥保管・再生処理を計画。

伝熱性能を落とさない表面設計

  • 膜厚最適化:Cuは高伝導だが厚すぎると製造コスト・残留応力↑。最小機能厚で止める。
  • 粗さ・テクスチャ:沸騰・凝縮条件に合わせ、核生成点確保と汚れ耐性のバランスを取る(過度な粗面化はファウリング増)。
  • 清浄度:油膜・生成塩が微小熱抵抗となるため、前処理・最終洗浄・乾燥を固定手順に。

加工・実装(接合/ろう付け/組立)

  • ろう付け・はんだ付け:Cuは濡れ性が良好。Niバリア→Cu→Sn仕上げで濡れ・拡散を安定化。
  • 溶接・機械接合:多層境界での剥離を避けるため、熱履歴管理・面取りR・バリ除去を徹底。
  • シール・ガスケット:電食・隙間腐食を避けるため絶縁材/耐薬品材を選定。

図面・見積にそのまま使える雛形

仕様:Niストライク→Cuめっき t=○ μm(均一膜厚)/必要に応じ Niバリア t=○ μm+Sn t=○ μm。
膜厚測定:XRF(測定点A/B/C)、エッジ±××mm除外、内面測定治具を指定。
粗さ:伝熱面 Ra=○.○ μm(測定方向を図示)。
媒体条件:流体種類・温度・pH・流速・固形分有無を図面注記。
耐久:圧力×温度サイクル×○回後、漏れ無・外観基準内。
禁則:ねじ・嵌合・シール面はめっき除外(マスキング)。

検査・評価の固定化(再現性重視)

  • 伝熱評価:定常状態での総括伝熱係数Uの比較(治具・流速・温度差を固定)。
  • 耐圧・リーク:耐圧試験(静圧)、気密試験(質量流量/圧力降下)。条件と合否を文書化。
  • 腐食評価:用途に応じた媒体循環試験(温度/流速/濃度/時間を明記)。特定の標準試験番号の一律適用可否は本記事では確認できていません
  • 密着(簡易):テープ/曲げ、はんだ濡れ試験を追加して界面の健全性を確認。

よくある不具合と是正の方向性

症状主因の例是正の方向性
局部剥離・水漏れ前処理不足、ろう付け熱影響脱脂/活性強化、ストライク採用、熱履歴見直し
早期の孔食塩分・停滞、電食Niバリア、絶縁・犠牲陽極、流速/塩分管理
伝熱性能の劣化酸化皮膜・汚れ・堆積表面再生、清浄度向上、フィルタ/フラッシング
エロージョン高流速・固形粒子許容流速設定、入口形状・ろ過強化

まとめ(実務要点)

  • Cuは薄く平滑に、熱抵抗とコストを同時に抑える。
  • 媒体条件を先決し、Niバリア・Sn仕上げ・封孔などを最小構成で選ぶ。
  • 異種金属接触の電食は設計段階で回避(絶縁/犠牲陽極/材質組合せ)。
  • 評価は前提条件を固定(流速・温度差・試験時間)し再現性を確保。

免責・不明点

  • 本記事は一般的な設計指針です。膜厚・粗さ・処理条件・価格・寿命は品物・設備・運用条件で変動します。
  • 各種規格・試験法の最新の適用可否や閾値は用途で異なり、本記事では一律の数値基準を確認できていません。原典と実機条件でご確認ください。

最終更新:2025年12月11日(日本時間)。

投稿者プロフィール
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ネオプレテックス株式会社
群馬県高崎市にある老舗のめっき会社。クロムめっき、ニッケルめっき、銅めっきなどを手掛ける。
大型の層を配備しており、長尺物などに対応可能。