無電解ニッケルめっきと電解ニッケルめっきの選び方 ― 特性別比較

同じ「ニッケル（Ni）めっき」でも、無電解Ni（化学Ni、Ni-Pなど）と電解Niでは、膜厚分布・外観・硬さ・コスト最適点が異なります。用途別に選定できるよう、設計・検査・図面記載の要点を簡潔に整理します。

ポイント

• 形状が複雑なら無電解Ni：電源不要で析出が均一→内面・深穴・細溝の厚みムラを抑えやすい。
• 外観・速度・厚付けなら電解Ni：鏡面外観や高能率、厚付け・コストで優位になりやすい。
• 図面の要点は共通：めっき後寸法・測定点・除外部位を明記し、検査手順を固定する。

特性別の比較

観点	無電解Ni（Ni-P等）	電解Ni（ワット/サルファミン酸等）
膜厚分布	均一性が高い（電流不要）	電流集中で角過厚・内面薄が出やすい
外観	半光沢〜グレー調が多い	光沢・鏡面仕上げが得やすい
硬さ・熱履歴	加熱で硬化（Ni3P析出）、延性低下に留意	浴・条件で調整。厚付け後の研磨で面性状最適化
はんだ性/導通	P含有ではんだ性低下傾向→上層Sn/Au等で補正	比較的良好（条件依存）
耐食・バリア	拡散バリア・微細孔埋めに有利	多層Niや下地設計で確保
形状対応	深穴・細溝・複雑形状に強い	治具・補助電極・姿勢最適化が鍵
工程速度	中速〜低速（浴管理で変動）	高能率化しやすい
コスト感	均一性対価・浴更新コストが効く	厚付け・量産で有利になりやすい
環境・更新	浴の老化・P管理、前処理清浄度に敏感	添加剤管理・ろ過で安定。スラッジ/有機物管理が重要

用途別の選定基準

• 複雑形状・微細部を均一に：無電解Ni（中〜高P）。
• 高い意匠性（鏡面）・厚付け：電解Ni（光沢Ni、必要に応じ半光沢Niとの多層）。
• 拡散バリア・寸法安定：無電解Ni→必要に応じ上層処理（Cr等）。
• 後加工研磨前提の寸法復元：電解Ni（サルファミン酸系）＋研磨。
• 接点・はんだ用途：電解Niの上にSn/Au等（無電解Ni-Pは追加層で補正）。

図面・見積にそのまま使える雛形

（例A：無電解Ni）
仕様：無電解Ni-P t=○μm（P=中/高）。
検査：膜厚（XRF）測定点A/B/C、外観、必要に応じ硬さ・密着（テープ）。
形状配慮：エッジR≈××、深穴は排液/排気設計。
寸法：図面寸法はめっき後基準。

（例B：電解Ni）
仕様：半光沢Ni t=○μm＋光沢Ni t=○μm。
検査：膜厚（XRF）、外観（見せ面等級○）。
治具・測定：測定点A/B/C、エッジ±××mm・ねじ・嵌合は除外。
仕上げ：必要に応じラップ/研磨でRa=○.○ μm。

前処理・工程設計の勘所

• 清浄→活性→ストライクの基本徹底（SUSはウッズNiストライク、Alはジンケート等）。
• 治具・補助電極・姿勢で電解Niの厚みムラを抑制。
• 無電解Niは浴管理（老化、P、温度、pH、濃度）をトレンド管理。
• 高強度鋼は水素脆化リスクに注意し、場合により低温ベークを検討。

検査・評価の固定化

• 膜厚：代表点A/B/CでXRF。内径は治具と方法を固定。
• 外観：検査距離・照度を規定。見せ面の等級を合意。
• 密着（簡易）：テープ/曲げの方法・合否を事前合意。
• 必要に応じ：硬さ（HV）、粗さ（Raと走査方向）、導通/はんだ性。

よくある失敗と対策

症状	主因の例	対策
角過厚・焼け（電解Ni）	電流集中	面取りR、補助電極、低電流立上げ、姿勢最適化
内面が薄い（電解Ni）	回り込み不足	補助電極挿入、極間調整、排液/排気穴
剥離・ブリスター	前処理不足、搬送遅延	脱脂・活性強化、ストライク採用、搬送短縮
はんだ不良（無電解Ni-P）	P含有・酸化	上層Sn/Au、活性化の最適化、加熱履歴管理

Q&A

Q. コストはどちらが安い？
量・形状・外観要求で変わります。厚付け・量産・外観重視は電解Niが有利な場面が多く、複雑形状・均一性重視は無電解Niが妥当です。

Q. 無電解NiのP含有率はどう決める？
耐食・バリア優先なら中〜高P、磁性やはんだ性に配慮する場合は低〜中Pを検討します（具体的な一律値は装置・薬液で異なり本記事では提示していません）。

Q. 最終的に迷ったら？
小片・治具検証で膜厚分布・外観・密着を確認し、図面の測定点・合否基準を固めてから本番に進みます。

免責・不明点

• 本記事は一般的な指針です。膜厚・P含有・外観・価格・納期は品物・設備で変動します。
• 規格・安全・環境要件は改定されるため、運用時は最新の原典を確認してください。
• P含有や硬さ・温度限界の一律標準値は用途差が大きく、本記事では確認できていません。試作評価で最適化してください。

最終更新：2025年12月4日（日本時間）。