微細穴、細溝、ねじ、シャープなエッジなどを持つ精密部品では、ニッケル(Ni)めっきの密着・寸法影響・厚みムラが品質を左右します。工程設計の勘所と失敗を防ぐチェックポイントをやさしく整理しました。
ポイント
- 寸法は「めっき後寸法」で設計し、重要部は膜厚=寸法増分を見込む。
- 形状配慮(軽い面取りR・排液/排気)と治具設計が微細部の品質を安定させる。
- 用途に合うめっき種(電解Ni/無電解Ni-Pなど)を選ぶと後戻りが減る。
用途別:ニッケルめっきの選び方(簡易比較)
| 種類 | 特長 | 向くケース | 注意点 |
|---|
| 電解Ni(ワット浴) | 外観・汎用性、工程が速い | 外観も重視、コスト重視 | 角過厚・穴薄に注意(電流集中) |
| 電解Ni(サルファミン酸浴) | 内部応力が低い、厚付け安定 | 寸法安定・厚付け、精密治具品 | 浴管理の適正が必要 |
| 無電解Ni-P(化学Ni) | 電源不要で均一性が高い | 微細穴・複雑形状・均一膜厚 | P含有で磁性/硬さ/はんだ性が変化 |
用語メモ:無電解Ni-Pは化学反応だけで析出するため、電流が届きにくい細部でも膜厚が比較的そろいやすいのが利点です。
微細形状の「あるある課題」と対策
| 課題 | 主因 | 実務対策 |
|---|
| 角の過厚/焼け | 電流集中 | 軽い面取りR、補助電極、治具位置最適化、段階電流(低→中) |
| 微細穴・深溝が薄い | 回り込み不足/排液不良 | 姿勢管理、排液/排気穴、無電解Ni-Pの活用、揺動・循環強化 |
| 寸法超過 | めっき後寸法を見込まず設計 | めっき後寸法で図示、重要部は膜厚公差を明記 |
| 剥離・ブリスター | 前処理不足、酸化膜・油残り | 脱脂→活性化の徹底、必要に応じストライクNi採用、搬送時間短縮 |
| ネジ・嵌合の固着 | 膜厚増でクリアランス消失 | ネジは原則マスキング、嵌合部は除外指定または後加工前提 |
工程設計のコツ(精密部品向け)
- 図面は「測定点」「除外部位」を明記:エッジ±○mm、ねじ・シール面・ベアリング嵌合は除外など。
- 治具・補助電極:見せ面に均一に電流が回る位置取り。細部は補助電極でカバー。
- 段階電流・低電流立ち上げ:初期欠陥を抑え、密着を安定化。
- 高強度鋼はベーキング検討:水素脆化が懸念される場合は低温ベークでリスク低減。
- マスキング設計:液侵入しにくい専用キャップ/プラグや塗膜マスクを使い分け。
発注前チェックリスト
- 目的:外観/耐食/寸法保持/摩耗対策(優先順位)
- めっき種:電解Ni(ワット/サルファミン酸) or 無電解Ni-P(均一性重視)
- 重要寸法:めっき後の基準値、公差、測定点の座標
- 微細部:穴径・深さ・溝幅、排液/排気の要否、マスキングの可否
- 素材:鉄/SUS/銅合金/アルミ/その他(分かる範囲で)
- 検査:外観、膜厚(XRF推奨)、必要に応じ寸法再測・密着簡易試験
- ロット:同仕様をまとめて依頼(段取り効率↑、ばらつき↓)
検査・合否の決め方
- 膜厚:代表点A/B/Cで Ni t=○μm以上(エッジ±○mm除外)。
- 寸法:重要寸法はめっき後で公差管理、測定方法を固定。
- 外観:ピット・ムラ・ふくれ無し。検査距離・照明条件を取り決め。
- 密着(簡易):曲げ/テープで剥離無し(方法は事前合意)。
ケーススタディ(イメージ)
- φ0.8 mm貫通穴×多数:無電解Ni-Pで均一化→必要部のみ電解Niで外観仕上げ。治具で姿勢管理し排液を確実に。
- M6ねじの嵌合不良:ねじは全面マスク→座面のみNi。嵌合は図面で除外宣言し、公差管理を容易に。
- エッジの焼け/スジ:R付け(例R0.2)+補助電極+低電流立上げで改善。
Q&A
Q. 微細穴の中まで均一に付きますか?
電解Niは薄くなりやすいです。無電解Ni-Pの併用や排液設計、治具最適化で改善可能です。
Q. 寸法はどれくらい増えますか?
膜厚分だけ増えます(両側で2×膜厚)。めっき後寸法で基準化し、公差を図面に明記してください。
Q. ねじはどう管理しますか?
原則マスキングが安全です。機能部(嵌合)は除外指定にして、座面や必要面のみめっきします。
免責・不明点
- 本記事は一般的な目安です。膜厚・浴条件・価格・納期は品物と設備で変わります。
- 無電解Ni-PのP含有率、硬さ、磁性・はんだ性への影響は浴・条件で変動し、本記事では一律値は確認できていません。見積時に用途をご共有ください。
- 薬品・安全・環境の要件は最新の公式情報に従ってください。
最終更新:2025年11月28日(日本時間)。本記事は本記事時点の公知情報に基づいています。