めっきの失敗(早期腐食、剥離、寸法不良、接触抵抗の増加、外観クレーム)の多くは、加工不良ではなく選定フローの抜けで起きます。本記事では、素材・用途・環境・寸法・検査までを一続きで決めるためのめっき選定フローをテンプレ化し、設計段階での手戻りを減らす方法を整理します。
失敗しないための5ステップ
- Step1:素材と加工履歴(材質、熱処理、表面処理、粗さ)を確定
- Step2:用途の優先順位(外観・耐食・耐摩耗・導電・はんだ・衛生)を決める
- Step3:使用環境(塩分、薬品、温湿度、摩擦、電流、温度)を定義
- Step4:層構成と除外部位(下地、バリア、仕上げ、マスキング)を設計
- Step5:検査と合否基準(膜厚・外観・耐食・接触抵抗等)を固定
めっき選定フロー(設計用の実務版)
Step1:素材・履歴を確定する
- 材質:鉄、SUS、Cu合金、Al、亜鉛ダイカスト、Tiなど
- 履歴:熱処理、黒染め、リン酸塩、アルマイト、ショット/バレル、3Dプリント等
- 注意:既存皮膜が残ると密着不良の原因。「処理後にめっきする」か「除去してからめっきする」かを先に決める
Step2:用途の優先順位を決める(1位〜3位でOK)
- 外観(色調・ツヤ)
- 耐食(屋外・海沿い・結露)
- 耐摩耗(摺動・接触)
- 導電・接点(接触抵抗、EMIシールド)
- はんだ付け(濡れ、拡散)
- 衛生・清掃性(食品・医療周辺)
Step3:使用環境を数行で書き出す
- 温度:常用○℃/ピーク○℃
- 湿度:結露あり・なし
- 塩分:海沿い・融雪剤・塩水
- 薬品:洗浄剤、酸・アルカリ、溶剤
- 摩擦:相手材、荷重、速度、潤滑
- 電気:電流、電圧、許容抵抗、EMI要否
Step4:層構成(下地→バリア→仕上げ)を決める
| 狙い | 候補の考え方(例) | 補足 |
|---|
| 外観+耐食 | 半光沢Ni+光沢Ni+薄Cr | 装飾Ni/Crの基本形。色見本で合意。 |
| 耐摩耗 | 下地Ni→硬質Cr(研磨) | 摺動・シャフト。角Rと電流集中対策が必須。 |
| 導電・接点 | Niバリア→Cu薄層→Sn/Au | 接触抵抗と酸化対策。荷重条件で評価。 |
| 複雑形状の均一性 | 無電解Ni-P(必要なら上層) | 内面や微細溝で有利。熱履歴で性質が変わる。 |
| 防錆(鋼) | Zn/Zn-Ni+(必要に応じ)接点だけCu/Sn | 選択被覆が王道。接点はクロメートを避ける設計。 |
注意:膜厚・成分の“統一標準値”は用途と設備で変わるため、本記事では一律値は提示しません。必要最小厚は、試験条件とセットで合意します。
Step5:除外部位(マスキング)と“めっき後寸法”を決める
- ねじ山、嵌合、シール面、導通不要面など「付けない場所」を図で明記
- 寸法は原則めっき後寸法で指示(両側で2×膜厚分変わる)
- 角・内面の厚みムラを見込み、測定点A/B/Cを固定
Step6:検査と合否基準を固定する
- 膜厚:XRFでA/B/C点、下限値を明記
- 外観:照度・距離・角度を固定し、等級票で判定
- 耐食:用途に応じた試験(塩水噴霧、循環試験など)を選定し、時間と判定を明記
- 接触抵抗:荷重・回数・温湿度を固定して評価
- 密着:テープ/曲げなど方法と条件を事前合意
設計時にやりがちなNG(これが失敗の原因)
- 用途を一言で言えない(外観?防錆?接点?)
- 環境条件を書いていない(塩分・温湿度・薬品)
- 測定点がない(どこを測るか曖昧)
- 除外部位が不明(ねじ・嵌合・シール)
- 見本がない(色調・ツヤが口頭)
図面・見積にそのまま使える雛形(コピペOK)
目的:(外観/耐食/耐摩耗/導電/はんだ)優先順位:①○○ ②○○ ③○○。
素材:○○(履歴:熱処理/表面処理の有無)。
層構成:○○→○○→○○(膜厚:各t=○μm)。
除外:ねじ山・嵌合・シール面はめっき除外(マスキング)。
寸法:図面寸法はめっき後基準。
測定:XRFで測定点A/B/C、下限○μm。
外観:見せ面等級○、照度○lx、距離○cm。
耐久:塩水噴霧○h、接触抵抗Rc≤○mΩ(荷重××N、××回)など。
Q&A(短く)
Q. 最初に加工会社へ何を渡すべき?
素材、用途優先順位、環境条件、見せ面、除外部位、測定点の6点です。これが揃うと提案精度が一気に上がります。
Q. 迷ったときはどうする?
小片・テストピースで「外観・膜厚・密着・耐食(必要なら接触抵抗)」を確認し、図面の基準を固めてから量産に進みます。
Q. 標準の膜厚は?
用途・設備・層構成で変わるため、一律の標準値は本記事では確認できていません。試験条件とセットで最小必要厚を合意してください。
免責・不明点
- 本記事は一般的な選定フローです。最適な膜厚・試験条件・層構成は製品仕様と設備で変わります。
- 規格・法令・環境条件は改定されます。実運用時は最新の原典・顧客要求を確認してください。
最終更新:2025年12月28日(日本時間)。